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2023年07月
チッソは私であった

今月の言葉は水俣病患者であり、同じ水俣病患者の為に訴訟問題の運動を起こされていた、緒方正人(おがた まさと)氏の講演録である本のタイトル『チッソは私であった 水俣病の思想』から頂きました。
 私が緒方氏と出遇う事が出来たのは、真宗大谷派の本山の研修会に参加した時でした。その研修会の御講師が緒方氏だったのです。そこで語られた事は今でも耳の底に残っています。
 まずは水俣病について語られました。水俣病の始まりは、一九三一年に現在の熊本県水俣市で操業が開始された後のチッソとなる工場が、工場排水を長年にわたり不知火海に排水したことにありました。
チッソ工場で作られる製品は、塩化ビニル(プラスチック製品の一種)で、日常に溢れていました。そして、この製品を作る過程で出る有機水銀(メチル水銀)を、工場排水として不知火海に垂れ流したのです。そしてその工場排水に含まれていた有機水銀は、土壌やそこに生きる魚介類の体内へと蓄積されていくのです。
そして、その魚介類を獲ることを生業としていた漁師によって、陸にあがるのです。
その魚介類を食べた猫・人が体内に水銀を蓄積し、それが原因となり、次々に中毒死をしていく水俣病の症例が、一九五四年に確認されたのです。当時は原因不明の病だったそうです。
その症例が確認された三年後に、熊本大学の研究機関が、「水俣病の原因は有機水銀(メチル水銀)である」と世間に公表しましたが、政府はその発表を受けてもチッソに対して操業停止を命じませんでした。ですから、その後も何年も有機水銀は、不知火海に流れていくのです。政府がその病の原因を有機水銀と認めたのは、一九六八年の事でした。その時は症例が確認されてから既に、約十四年もの歳月が過ぎていました。
 この法語にある「チッソ」とは水俣病を引き起こした原因企業の名であるのです。
 緒方氏から語られる自らの実体験は想像を絶するものでした。漁師の家に生まれ、父親を尊敬して育った緒方少年は六歳 の時に、筋骨隆々だった父が手足のしびれを訴え始め、痙攣を繰り返し、発症から僅か二か月後に亡くなったのでした。そして、緒方少年自らも、水俣病を発症していくのです。
そこから成長した緒方氏が水俣病についてチッソや国に対して、責任を追及する運動を始めます。その心境を本の言葉を引用します。

  やっぱり親父の仇を討とうとする気持ちがずっとあったわけですね。
  仇討ちをせんと、死んだ親父に申し訳がきかんという気持ちです。
  (中略)ですから私自身も強い恨みを持っていた。
  それで運動に関わっていくわけですが、恨みで展開されていくことは、
  その後、逆転することになります。  
                        (本文 三十八頁)

 緒方氏は恨みをもって活動をしていた時、「この水俣病の責任者は誰か。チッソか!操業の停止命令を出さなかった県か国!」と長年追及していきましたが、その先にある責任主体が「チッソにも政治、行政、社会のどこにもいない」という事を急に感得するのでした。
 それはある日、水俣病の問題は何かの組織や制度の問題ではなく、実は「人間の問題」であり、「人間」である限り、実は問題の責任は自分にもあるというのです。「人間の問題」とは、生きるために命を奪う、自然を汚すという生き方しかできない問題です。そのような人間である自分も、自然に対しては加害者だったのです。
だから緒方氏は今までの「私は被害者」「チッソは加害者」としての立場ではなく、自らも加害者である事を感得したからこそ「チッソは私であった」と言ったのでした。
これによって、企業や国を責めたり、誰かを恨んだりする活動ではなく、この人間の問題を、共に手をとりあって解決していかなくてはならないと思い、加害者を立てない新たな活動として「本願の会」を仲間と共に立ち上げて、現在も活動されているのです。
最後に、このような緒方氏に出遇い、お言葉を聴けた事は、私の人生においても大切なことでした。私の拙い文章ではなかなか緒方氏の事を伝えるのには不十分ですので、どうか皆様にも緒方氏と出遇って頂きたいと思うのです。

参考資料
『チッソは私であった 水俣病の思想』
緒方正人 河出文庫二〇二〇年出版
森林公園昭和浄苑 支坊 目﨑明弘

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