今月のことばは、大人気を博し映画化もされている漫画『鬼滅の刃』より、これまた主人公に引けを取らない人気のキャラクター、煉獄杏寿郎のセリフからです。
「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ 堪らなく愛おしく、尊いのだ。」
このセリフは、人間(有限)の煉獄さんが、不老不死の鬼(無限)にお前も鬼にならないかと誘われた際に言った言葉です。漫画の内容はここでは割愛しますが、豪快で明朗快活でまっすぐなこの煉獄というキャラクターは、なかなかにかっこいいのです。しかしそれ以上に、人間のありのままの姿を受け入れそのまま愛でる姿に、受け取る私達が魅力を感じ、主人公に引けを取らない人気となる理由なのではないかと思います。
逆に考えると、私たちは普段どうしてもありのままの自分の姿や状況に満足できず、常に移ろいゆくことにある種の恐怖と嫌悪をいだいているのではないでしょうか。諸行無常の道理に身を任せられず、老いて病になっていつか死ぬことがわかっていても、どうしても受け入れがたいのです。アンチエイジングという言葉はまさにそのまま、年を取るのがアンチ(嫌)ということですし、お昼前後のTⅤでは若返りサプリの通販が流れない日はありません。これは煉獄さんのことばとは真逆のとらえ方ですね。老いて死ぬことはつらく堪え難いものであると。これは人間の執着心の問題であると思います。
では、老いてやがて死を迎える有限のいのちをいただいているということは本当につらく堪え難いことなのでしょうか。できたことができなくなること、持っているものを失うことは避けたいことですし、悲しくつらいことです。しかしながら、年も取らず、何も変わらずずっとそのままであるとするならば、それこそそこに意味や意義を見出すことは大変なことであろうと思うのです。有限であるがゆえに、今この一瞬の間を大切にする、活力になるということがあるのではないでしょうか。遠い昔、中国に曇鸞というとても優秀なお坊さんがいました。この曇鸞大師もまた、有限なるいのちに対し苦悩し、自身の仕事を成し遂げるために不老不死を求めたのです。しかし、有限なるがこその深淵なるいのちの意味に回帰し、浄土の道を示されました。そこにはやはり自己のいのちの意義、そしていのち尽きた後の、明確な安心を得られたからだと思うのです。
今月のことばは、有限で移ろいゆく道理の中にこそいのちはかがやき、そして美しく尊いものであるということ。有限であるがゆえに悩み、悶えるけれども、実はこの一瞬が素晴らしく何物にも代えがたい一歩であるということに気づかせていただく言葉であろうと思います。
そのためにはやはり自分のいのちの背景や行き先がはっきりしないといけません。この一瞬も移ろいゆく中、自分の歩みがどこに向かっているのか、大事に確かめてみませんか?
船橋支坊 溝邊